東京高等裁判所 昭和35年(ラ)307号 決定
次に抗告人は、「本件公正証書には、元金完済に至るまでの年五分の割合による金員の支払に関しては、なんの記載もなされていないから、本件公正証書は、この点でも一定金額の支払を目的とする請求の表示を欠くものである。従つて本件公正証書の執行力ある正本に基く申立によりなされた本件強制競売手続開始決定は違法である。」旨主張するので判断する。
本件不動産強制競売申立書(記録一ないし三丁)によれば、債権者前田昭三は抗告人を債務者として、本件公正証書に基く貸金元金三百万円とこれに対する弁済期の翌日である昭和三十四年七月十五日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金があるものとして、その弁済を受けるため本件強制競売の申立をしたものであることが認められ、執行裁判所である原審も、右申立に基いて、不動産強制競売手続開始決定をなし、右決定中に債権の表示として元金三百万円のほかに、これに対する昭和三十四年七月十五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を記載しているのである。もつとも抗告人主張のような利息ないし遅延損害金債権については、抗告人主張のように、本件公正証書には、「利息は元金弁済の際当事者協定の上支払うこと」とのみ記載されているのみであるから、年五分の損害金については債務名義が存在していないが、上記認定のように元本債権金三百万円の支払を目的とする請求については、本件公正証書は、民事訴訟法第五五九条第三号の要件を具備しているものであることは、本件記録中の上記公正証書正本により明らかであるから、執行裁判所としては、債権者の本件申立を却下することなく、強制競売手続の開始決定をなすべきことは当然である。従つて、右損害金の点についてまで競売開始決定をなしたのは違法であるが、この違法は、本件強制競売手続開始決定そのものを違法とするものではないから、右主張も採用できない。
(村松 伊藤 土肥原)